第三話

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 自分がまさかあんな怪しい闇オークションにかけられるなんて思いもしなかったし、そんな場所へ本郷が現れたことも、未だに信じられない。学校を辞めてから、完全に真逆の世界に居たはずの本郷と出会うことなんて、もう二度とないだろうと思っていたのに────  聞こえてくるピアノの音に耳を傾けたまま、悠がまだどこか夢見心地で微睡んでいると、不意に音が途切れた。もっと聴いていたかったのに、と思わずベッドの上で軽く身を起こしたとき。ガチャリと部屋のドアが開いて、相変わらずモデル顔負けの容姿の本郷が、目を覚ました悠を見て安堵したように笑みを零した。今はもう仮面もスーツも纏っていない、私服姿の本郷を目の当たりにして、何かの間違いでも夢でもなかったことを実感する。 「もしかして、俺のピアノの音で起きちゃった?」  問い掛けながらゆっくりベッドへと歩み寄ってくる本郷に、一体どんな顔をすれば良いのかわからず、悠は「いや……」とだけ答えた。むしろ本郷が奏でる心地良いピアノの音に聴き入っていたとは言えない。 「気分、どう?」  ベッドの縁に腰を下ろして、悠の頬へ長い指でそっと触れてくる本郷に、心臓がドクリと大きく跳ねて、悠は咄嗟にその手から逃れるべく、軽く頭を振った。 「……いいワケねぇだろ」     
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