第四話

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 別に、演奏を聴いて貰うのは一向に構わない。聴衆が居る方が適度な緊張感も味わえるし、本郷のピアノを聴くことで、音楽に興味を持って貰えるならそれほど嬉しいことはない。  けれど現実はそうではなく、一曲弾く度に弾んだ声で問われる曲名は、彼女たちにとっては別にどうでも良いことだった。  曲名を答えたところで、返ってくる答えは「へぇ、そうなんだ」と、ただそれだけ。そこでもう、音楽の話題は呆気なく終了する。  本郷に曲名を聞くのは、本郷に話しかける為の単なるきっかけでしかないのだと、本郷は高一の半ばで悟った。  表面上は人当たりの良い男を演じていたが、内心では周りに群がる生徒たちに、心底うんざりし始めていた。「格好イイ」だとか、「手が綺麗」だとか、褒められて嫌な気はしないが、本郷が本当に欲しい評価はそこじゃない。  集まってくる生徒たちの中には男子生徒の姿もチラホラあって、彼らの目的が純粋に本郷の弾くピアノなのか、それとも単に女子の群れに混ざりたいだけなのかはわからなかったが、音楽には全く興味もないのにそれを餌に近付いてこようとする女子たちよりはマシだと思えたくらいだ。     
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