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第五話
「御影くん」
軽く肩を揺すられて、悠は固い診察台の上で薄らと目を開けた。
此処はどこだ…、と見慣れない天井に一瞬身を強張らせた悠の顔を、月村が少し心配そうに覗き込んでくる。その顔を見て全ての経緯を思い出した悠がホッと息を零すと、月村も安心したように僅かに笑みを見せた。
「点滴、終わったよ」
いつの間に眠ってしまっていたのだろう。月村に言われて自分の腕を確認すると、点滴の針は既に抜かれていて、止血用の絆創膏が貼られていた。
「気分悪くなったりはしてない?」
「……大丈夫です」
月村にはそう答えたものの、発情期の所為で酷く喉が渇いていた。カラカラの喉から絞り出した悠の掠れ声に苦笑しながら、月村が『飲み薬』と書かれた紙の袋を差し出してきた。受け取った袋には、手書きで『発情抑制剤 一回二錠 一日一回まで』と書かれている。
「さっき帰りに受け取ってって言ったけど、キミが眠ってる間に薬剤師が届けにきてくれてね。ちゃんと服用する量や回数は守るように」
「ありがとう、ございます……」
「御影くんは一人暮らし?」
悠が小さく頷き返すと、月村は腕の時計に目を遣ってから、再び悠の顔を見下ろした。
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