再開

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教室に冷たい風が吹き込んでくる。猛暑だ猛暑だと騒がれていた夏の気配はどこかに消え、秋の景色が顔を出してきた。しかし、寒い日があんまり好きでは無い僕は、授業中にも関わらず、大きな溜息をついた。 今から一年前の寒い日、彼女に別れを告げられた。たったそれだけの理由で寒い日を嫌いになるほど、彼女が好きだったのだろう。一年経ってもこの感情に縛られている。そんな状況を抜け出したいような忘れたく無いような。よく分からなくなってきた。 まあ、いつものことだ。 「柿島!おい!聞いているのか!これを解いてみろ!」 数字教師が怒鳴っている。今日は九月十日、僕の出席番号は10番だ。 あぁ、やっぱ寒い日は好きじゃ無いな。 ようやく授業が終わった。クラスメイトの 女子が近づいて来る。名前は、たしか、杉山だったか。 「柿島君、今日は部活来るのかな?」 いつものことだ。いつも通りならここで断る。僕はもう部室に足を踏み入れたくは無い。あそこには思い出が多すぎるからだ。 しかし、今日は少し違かった。と言っても、部室に行きたくなったわけでは無い。けれど、そこに行くことで何かが変わるような予感がしたのだ。丁度一年ほどだからだろうか、ただセンチメンタルになりたいだけかもしれない。 「今日は、行く」と答えた。 「そっかーやっぱそうだよね…って今なんて言った!?」机に乗り出して来る。 「行くって言ったんだよ、もう少ししたら行くから先に行ってろ」椅子から立ち上がりカバンを背負った。 「うん!待ってるね!」手を振って来る。僕が部活に行かなくなってから頻繁に声をかけてくるようになった。うるさくて馴れ馴れしい奴だが、優しい人なのだろう。 放送室にたどり着いた。ドアの重みがもう懐かしく感じるほど時間が経ったのかと、少し切なくなる。 大きな音が出ないようにゆっくりと開ける。 杉山さんが、僕を見つけ走り寄って来た。 「ほんとに来てくれたんだね!」と笑顔だ。 半年以上来なくなっても、相変わらず部室は汚いままだ。 不意にドアが三回ノックされる。 癖だった。彼女の。大好きだった人の。大好きな人の。 逃げ出したい気持ちに襲われる。しかし、もうドアは開けられていた。 「みんな、こんにちは。今日も部活、はじめるよ」と少し気だるそうな喋り方。 僕が所属している放送部の顧問。鳴瀬琴海先生だ。
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