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「っ……」
そう思ったら今まで我慢していたものが一気に溢れてきてしまって。
「……俺……ばあちゃんの前で泣かなかったんだ……」
「……うん」
「……毎日……病室に……行って……たのに……」
病気で弱っていく祖母を見るのが辛かった。
最期になると思いたくなくて、思わせたくなくて。
見舞いに行っても普段通りに笑って……他愛のない話をする事しか出来なかった。
死んだら嫌だと言えなかった。
そんな俺の態度は、祖母からしたら寂しくはなかっただろうか。
亡くなってからそればかり考えてしまい、辛かった。
そんな心の内を、嗚咽混じりに吐きだす。
すると固く握りしめていた拳が、ふわりと温かくなった。
琴子の両手が俺の拳を包み込んでいた。
「ねぇ陽人、お祖母様は陽人の性格をよく知っているでしょ?気遣い屋で優しい所。自分よりも相手の事を考えてしまうからそれに苦しんでしまう事。だから陽人の気持ちはきっと伝わってるわ」
きゅ、と包み込まれていた両手に力がこもる。
「陽人の笑顔……毎日見られて幸せだったと思う」
ぼたぼたと涙が机に落ちた。
「……そう……思って……いいのかな……」
「当たり前じゃない」
自信に満ちた琴子の声になんだか安心してしまって。
今までしまい込んでいた物を吐き出すように、俺は泣いた。
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