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涙には浄化作用があるのだという。
確かに気持ちは軽くなったし、不安だった思いまで流れ出てくれた気がする。
それでも人前で自分がこんなに泣くとは思わなかった。
気持ちを落ち着かせてから息を吐く。
「……ごめん」
「何を謝ってるのよ」
「男が泣くなんてみっともないと思って」
我に返るとさすがに恥ずかしさが勝ってしまって。
「誰かを想って泣く涙を恥じる事なんてないわ」
凛とした声。
真っ直ぐな眼差し。
綺麗だと思った。
同年代の女の子を綺麗だと思った事なんてない。
ただ見つめていると、琴子が日誌を閉じて筆記具を片づけ始めた。
「終わったわ、先生に提出して帰りましょう」
「……そうだね」
立ち上がって椅子を元の位置に戻す。
雲間から西日が差し込み、眩しさに目を細めた。
オレンジ色の光が琴子の艶やかな髪に映って茶色く染める。
思わず触れたくなって伸ばしかけた手。
はっと我に返って慌てて引っ込める。
「陽人?行かないの?」
振り返った琴子が小首を傾げて俺を見ていた。
「あー……ちょっとぼーっとしてただけ」
曖昧に笑って、鞄を肩に引っ掛けた。
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