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改札を出て、待ち合わせ場所である百貨店の入り口付近に目を向ける。
同じように待ち合わせをしている人で溢れていた。
一瞥しただけですぐに連絡を入れようと携帯を取り出した時。
「不動君」
有村の方が先に到着していたらしく、ひょこっと前に現れた。
「悪いな、呼び出したみたいになって」
「ううん、私も今日空いてたからタイミング良かったよ。電話で言ってたのってそれ?」
俺が持っていた紙袋に視線を落とす。
「そ。大量にあったから持ってきた」
掲げた紙袋の中には蜂蜜が入った瓶が数本。
収集癖があり、飽き性である一番上の姉が最近ハマったのが蜂蜜だった。
美容にも健康にも良いのだと専門店まで足を運び買い込んでいる。
美味いのは確かだ、そこは認める。
ただ限度があるだろ。
「でもこんなにいいの?こういう蜂蜜って高価だよ?」
「どうせ消費出来ねぇ内に飽きるから」
母親も呆れていたし。
テーブルに積まれた大量の瓶を見ていてふと思った。
蜂蜜は喉にも良かったよな、と。
「それならありがたく頂くね。これから寒くなるし、冬場は特に気を付けてるから嬉しいよ」
そのまま渡そうとしたが、ずっしりと重い紙袋に手が止まる。
「重いから帰りに渡すわ」
連絡を取った時に有村から夕飯の提案をされていた。
先生はいいのかと思ったが、仕事で打ち合わせがあるらしく夜も遅くなるとの事。
“先生のご飯は作っておくから大丈夫だよ”と甲斐甲斐しく答えていた。
「ありがとう。じゃあ夕飯には少し早いけど、どこかお店に入ろっか」
涼しい店がいいなと思いながら、駅に背を向けて歩き出した。
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