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「わ、ごめん!切ってなかった!」
俺との待ち合わせの時にマナーモードを解除していたのだろう。
「気にしねぇよ。電話?」
「ううん、メール……だけど……」
携帯の画面を見た有村の表情が曇る。
「?」
どうしたのかと思って見ていると、俺の視線に気付いた有村が肩を落とした。
「先週ね……告白されて」
相手は同じ声楽科で2つ年上。
去年の学内公演で顔見知りになり、会えば話をする程度だったという。
ここ数ヵ月で声を掛けられる事が多くなって先週告白されたそうだ。
「きちんと断ったんだけど、“諦めないから”って。それ以来ご飯とかコンサートによく誘われるの。最近じゃ家に来ないかって言われてて」
「そりゃ面倒くせぇな」
「自分に自信を持ってる人だから押しが強いの」
“実力とか成績とか色々”と有村は疲れたように溜め息をついた。
「で、何だって?」
「“今からご飯どう?”って」
「断っとけ」
「気付かなかったフリは?」
「次は電話が来るぞ」
「うぅ……」
有村は珍しく辟易した顔で、ノロノロと指先を動かした。
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