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第1話
───最悪だ……。
黒板に書かれた自分の名前を見て、一ノ瀬透はぐったりと机に突っ伏したくなった。
「それじゃあウチのクラスの体育祭・文化祭実行委員は、一ノ瀬くんと喜多川くんにお願いします」
教卓に立ったクラス委員の女子の言葉を合図に、教室中がはやし立てるような拍手に包まれる。それは称賛でも激励でもない。明らかに皆、「自分じゃなくて良かった」という安堵からくる拍手だった。
透の通う都立F高校は、五月末に体育祭、十月末に文化祭が行われる。それらの実行委員を今日中に決めなければならないとクラス委員が言ったのは、今から二十分ほど前。六限目終了後、HRが始まってすぐのことだった。
毎日ではないにしろ、夏休み中も含めて約半年間も拘束される実行委員を自らやりたがる人間は、クラスには誰も居なかった。勿論、それは透だって同じだ。
元々目立つことが嫌で、人付き合いも苦手なΩの透は、委員会にも部活動にも参加していない。けれど、今回はそれが仇になってしまった。
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