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通話を切られそうになったので、透は慌ててスピーカー越しの相手に呼び掛けた。
微かに、息を呑むような音がする。
『……何で眼鏡が居んだよ』
「あの……二宮さんから、ここに来るようにってメール貰って……」
『アイツ……』
チッ、と舌打ちが続く。
学校で、「一緒に寝てもいい?」と聞いた透を、喜多川は拒まなかった。けれど明確な約束を交わしたわけでもなかったので、さすがに追い返されるかと思ったのだが、喜多川はエントランスのオートロックを解除してくれた。
それは、喜多川が透に対して心を開いてくれた瞬間のように思えた。
二宮の粋な計らいで喜多川のマンションへの訪問を許された透は、それ以来度々ここへ訪れるようになった。
十階にある、2LDKの広い部屋に、喜多川は一人で暮らしている。
恐らく『口止め』が目的なのだろう。この部屋は、橋口いずみから与えられたものらしい。
喜多川とその父親の為に購入されたらしいが、父親がここで一緒に暮らしていたことは一度もないと喜多川は言っていた。その為、リビングと寝室は使われているが、洋室が丸々ひと部屋、空き部屋になっている。
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