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立候補者が誰も名乗り出ない中。痺れをきらしたクラス委員の、「決まるまで帰れないから」という発言を受けて、クラスの誰かがポツリと零した。
「そういや一ノ瀬って、委員会も部活もやってなくね?」
黒髪に、少し度の強い眼鏡。特に目立つところもない、平凡な顔立ち。身長も172センチと、高くもなければ低すぎることもない。そんな透は、普段はクラスではまったく目立たない存在のΩだ。それなのに、こんなときだけ都合よく名前を挙げられて、透はギクリと肩を強張らせた。
案の定、教室中の視線が透に注がれた。たった一人を除いて。
勿論引き受けてくれるだろ?、と言わんばかりのクラスメイトたちの視線を一身に受けて、「出来ない」と答えるだけの勇気は、透には無かった。躊躇いながらも小さく頷いた透の名前を、クラス委員が嬉々として黒板に書き込んだ。
決して喜ばしいことではなかったけれど、そこまではまだ仕方ないと諦めがついた。透が毎日、授業が終わればそそくさと帰宅しているのは間違いなかったし、その理由だって、単に人の輪に加わるのが苦手だからだ。そんな自分が断れば、白い目で見られることは明らかだ。一年の頃は「まだ学校に不慣れだから」と言い訳してどうにか免れたが、二年になった今、さすがにそれも通用しない。
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