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時間の指定も特になかったので、一体どうしたんだろうと思いつつ、透は昼食を済ませて身支度を整えてから、喜多川のマンションへ向かった。
インターホンを鳴らすと、
『……早すぎんだろ』
と、明らかに寝起きとわかる欠伸混じりの掠れた声が応答した。
「ごめん、時間書いてなかったから……。もっと遅い方が良かった?」
部屋に着くなり謝った透に、喜多川はまだ眠そうな顔をしながらベランダに続く窓へ視線を向けた。
「陽が落ちんの何時だよ。あと四、五時間はあんだろ」
「……? 陽が落ちてから何かあるの?」
呼び出された理由が未だにわからない透がキョトンと首を傾げると、喜多川はじとっと透を見下ろして呆れた息を落とした。
「花火大会って、お前が言ったんだろーが」
「え……?」
慌てて携帯で日付を確認する。
今日は、S川花火大会が開催される日だった。
「なんで……花火、興味ないって……」
「俺は別に興味ねぇよ。どーせ毎年こっから見える」
言われて初めて、喜多川の部屋のベランダが、丁度S川の方角に位置していることに気が付いた。
「……俺が言ったから、呼んでくれたの?」
「見てぇなら好きにしろっつーだけだ」
そう言って、喜多川は盛大な欠伸を漏らした。
「朝まで冬治に付き合わされたから、しばらく寝る」
リビングに透を残して、喜多川はさっさと寝室に引っ込んでしまった。
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