番外編 ろくでなしの君と見るスターマイン

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「昼間よりはだいぶ涼しいよ。ここ高いから、結構風もあるし」 「わざわざ出向いてまで見に行くヤツの気が知れねぇ」  眉を寄せたまま、喜多川は陽が沈む前に透が近所のコンビニで買ってきたフランクフルトを齧っている。その横顔が、夜空に開く花火の光に照らされて、いつもより彫の深さが際立って見えた。  綺麗だな、と透は花火だけでなく、すぐ隣に立つ喜多川を見詰めて思う。  もう何度も訪れている喜多川の部屋。いつもと変わらない場所なのに、全く知らないところへやって来たような気分だった。  マンションの一室のベランダが、今だけはまるで二人きりの特等席みたいだ。  実際に間近で見たことはないけれど、河川敷まで行って見上げる花火より、今この場所で喜多川と見る花火が一番綺麗な気がする。 「一瞬で消えんのに、花火の何がいいんだよ」  食べ終えたフランクフルトの串をベランダのゴミ箱に放り込んで、喜多川が透の横で手摺りに寄り掛かった。  少しだけ目を細めて花火を見詰める喜多川の声が、どこか寂しげに花火と一緒に散っていく。  母親の橋口いずみも、その不倫相手の父親も、そして擦り寄ってくる数々の女性たちも。喜多川にとっては、花火みたいにあっという間に消えていく存在だったのかも知れない。     
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