第2話

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 きっと放課後になれば喜多川はいつものように目を覚ますだろうから、そこでもう一回声をかけてみようと、透はHRが終わるのを今か今かと待っていた。和田が「明日の授業で小テストやるからなー」と告げて、それに対するクラスメイトたちのブーイングを合図に、やっとHRが終わった。日直が「きりーつ」と気怠い声で号令をかけ、皆がガタガタと椅子を鳴らして立ち上がる。隣を見ると、喜多川一人がそれに従わず、まだ机に顔を伏せていた。  ───よし!  心の中で拳を握って、透は「れーい」という掛け声に合わせて一礼した後、「喜多川!」とすぐに右隣りに向かって声をかけた。───ところが。 「あ……あれ……?」  ほんの一瞬前まで眠っていたはずの喜多川の姿が、『礼』の動作をしていた僅かな時間で荷物ごと消えている。そんな馬鹿な、と透が顔を上げると、丁度教室を出ていく喜多川の後ろ姿が見えた。 「なにアレ……忍者……?」  瞬間移動でもしたのかと思うほどの素早さに呆然と呟く透の背後で、宇野が「さすがαはちゃうなあ」と何とも呑気な声を上げた。 「αって、そんな素早く動けるの?」  真顔で振り向いた透に、宇野が「そんなワケないやろ」と笑う。自分も宇野みたいに笑ってやり過ごせたら楽なのに、と透はガックリと肩を落とした。 「まあでも、喜多川が俺らと何かちゃうのは確かやけどな。ほんま何考えてんのかわからんわ。ところで一ノ瀬、追いかけんでええん?」  宇野が、親指で喜多川が出て行ったばかりの教室の入り口を指差す。  何とか校内に居る間に喜多川を捕まえられたら、まだ望みはあるかもしれない。……委員会に出てくれる可能性は、限りなく低いような気はするけれど。     
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