第4話

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「かったるいから今から皆でオケりに行こうっつってんだけど、アキも行こうよ」 「どーせずっと寝てばっかなんでしょ?」 「いい加減、アキはキスでもしなきゃ起きないって言われてんだよー?」  どこまで本気なのか、三人は愉しげに言ってまた笑い声を上げる。そこでようやく、喜多川が伏せていた顔を起こした。  普段の寝起きの怠そうな顔とは違って、その顔には苛立ちと怒りが色濃く浮かんでいた。  ガタン、と椅子を蹴飛ばすようにして立ち上がり、喜多川は自分を囲む女子たちには目もくれず、無言のまま教室を出て行ってしまった。いつもみたいに「うるせぇ」だとか、「うぜぇ」と素っ気ない言葉をかけられる方がよほどマシだと、透は喜多川の気迫にゴクリと喉を鳴らした。今の喜多川は、まるで殺気立った野生の獣みたいだ。  さすがの女子たちもしばらく唖然としていたが、「付き合ってくれないんならキスくらいしてやれば良かった」という一人の発言をきっかけにまた笑いだして、三人はそのまま騒々しく教室を後にした。  透だって、あんな風に思いきりよく割り切ってしまえたら気が楽なのに。 「なんや、最近えらい不機嫌やな、喜多川」     
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