終わりの始まり

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終わりの始まり

新たな命を求めること数刻。 砂塵が舞う中、何の前触れもなく天空から眩い一筋の光が、永住に向かって放たれた。 「何だ?」 眩しさから手をかざして光の先を伺うと、銀色の球体が見えた。 その球体は速度を増して近づき、永住の前まで急停止すると、グニョグニョと人形を形成しながら色を変え、最終的に色白のブロンド髪の白い衣服を纏った少年の姿となった。 「サ、サルビなのか?」 永住が尋ねると、少年は微笑んでお辞儀をした。 「そうです、僕はサルビ・ウイアザル。貴方に永遠の命を与えた者」 いつものふてぶてしい態度と口調は影を潜め、丁寧な口調と仕草を使うサルビに違和感を感じた永住は、少年に疑いの目を向ける。同時に刀の柄に手を置き、いつでも攻撃できる体勢をとった。 それに気づいたサルビは、 「フフフフフ・・・」 と大人びた笑い方をした途端、 「相変わらずの殺気だなあ、永遠を生きる者よ。随分と打ちのめされた顔つきをしているが、もしや寂しかったか?」 といつもの口調へと戻った。永住はふざけたサルビに怒るどころか、嬉しさと懐かしさから元気を取り戻す。 「ああ、寂しかったよ、サルビ。やはり、生きていたか?」 「当然だ。ナーガごときで死ぬはずがなかろう」 「しかし、危なかったのだろ?」 サルビはお腹を手で叩いたあと、 「まあ、そういうことにしておこう」 と不機嫌そうに答えた。 「それでオレの前に現れた目的は?約束を果たしに現れてくれたのか?忘れたとは言わせんぞ」 「質問が多いのう。現れた目的は、お前がこの星の未来を見届ける決断をしてくれたことが、死ぬほど嬉しくてな」 「死なんだろ、お前は」 「例えだ、永遠を生きる者よ。相変わらず真面目な男だ。あとは、約束の件は忘れるわけなかろう。再会を祝ったあとに、あの日の約束を果たそうではないか」 サルビはニコッと笑うと喉を膨らまして、お猪口と酒瓶を吐き出した。 「・・・相変わらず汚い」 冷ややかな目を向ける永住。 「だが、瓶の中身は一級品だぞ。さあ注げ、永遠を生きる者」 永住はベトベトの酒瓶をマントで拭いたあと、サルビが持つお猪口に酒を注いだ。 「んーーー良い香りだ、酒は人間が生み出した創造物で、特に価値ある逸品だ。さあ注いでやる、瓶を差し出せ」 サルビは片手で酒瓶を持とうするが、少年の姿では手が小さ過ぎた。 「これはいかん、本来の姿に戻ろう」 そう言うと、先と同様に自ら身体の形と色を変え、大きな黒目を持った手足の異常に長い、全身銀色の姿となった。 「本来の姿だと?やはり宇宙人だったか」 「お前達人間にとっては宇宙人であり、神である。さあ、話は後だ、器を出せ」 サルビはあっさり認め、大きな黒目をパチクリさせながら、永住が持つお猪口に酒を注いだ。 「永遠を生きる者よ、いや、石田永住。再会を祝して乾杯」 永住はサルビが初めて自分の名を口にしたことが嬉しくて、自然と笑みを溢す。 「どうした?飲まんのか?」 「いや、乾杯」 永住は酒を一気に飲み干し、 「ふう、美味い!」 と美酒の味を堪能した。 「さてさて、他の約束も守らねばならんのう」 「オレの命を終わらせるのか?」 「いや、違う」 「ならばお前の正体を、オレに永遠の命を与えた目的を教えてくれるのか?」 サルビは頷き、 「よし、良いだろう。だが、ここでは説明しづらい。場所を変えよう」 と言って指でパチンと音を鳴らした。その瞬間、砂塵と化した光景が消えて、代わりに白い空間が現れた。 「何が起こったのだ?」 「瞬間移動というやつだ」 「なるほど」 「意外に冷静だな。驚かんのか?」 「永遠の命を与えられた挙げ句、お前という存在に出会ったあとで、今さら驚くことがあるのか?」 「フフフフフフ、そうだな。ここは異空間、我々が存在する世界」 「我々?他にもお前のような者がいるのか?」 「いる。しかし、我々はお互いに干渉したりしない」 「何者なのだ?」 「この宇宙が生まれると同時に、星を構築するために生み出された生命体。それが我々だ」 「どれくらいいるのだ?」 「知らん。先も言ったように、我々はお互いに干渉しないし、接触もしない。存在自体は確認できるが、他のことは何も知らん」 「星を構築するためと言ったが、もしや地球を創造したのがサルビ、お前か?」 「そうだ。地球だけではない、お前が知っている火星や土星と言った星々も創ったのは我だ」 「それが何故、何が目的で、オレを不死身にした?」 サルビは酒を自分で注ぎ、グビッと飲み干したあとに答えた。 「それについては後々話すとして、まずは人類誕生について語ろう。我にとっては大した時間ではないが、遥か昔に地球という星を創り、退屈しのぎに小さな生命体を海中に送ってみた」 「退屈しのぎだと?」 永住は機嫌が悪くなる。当然だろう、幾時の人類の歴史を退屈しのぎで創られたのだから。 「そう怒るな、永住よ。その小さな生命がどう進化していくかを実験してみたくてな。途方もない年月の間に幾多の種が誕生しては絶滅を繰り返した後、人類が誕生した。どの道、滅びる種だと思っていたが予想を裏切り、人類は知能を得て、地球の生態系まで変えてしまうほどの想像を遥かに越えた存在となった。我は人間という生命体に興味を持ち、間近で見、この星にどう君臨するのか期待を膨らませて見続けた。結果はただ数だけ増やしては領地を奪い合い、そして殺し合う愚かな生命体。我は人類の進化の限界を感じた。そんな時に、類い稀な生命力を持つ人間に出会したのだ」 「もしや、その時に出会ったのがオレか?」 サルビは首を横に振った。 「察しが良いがお前ではない。その者達は更なる進化をする可能性を秘めておって我を大いに期待させたが、ある者は時の権力者に存在を恐れられて殺された。またある者は自分の力を過信した挙げ句、炎に焼かれ殺され、他の者も似たようなものだった」 「神と呼ばれ者達だな。ならばオレと同じように、不老不死にすれば良かっただろう」 「彼等は、不老不死にするほどの器ではなかったのだよ」 「器?」 「彼等は人を救うことばかりで、殺しはしない。それに与えたところで、我の力に耐えられずに死ぬだろう。我が求めたのは人智を越えた漲る生命力を持ち、人を救いもすれば滅することもできる人間、お前達人類の言葉を借りるなら神にも悪魔にもなりうる人格の持ち主、それこそが永住、お前だったのだよ」 「それでオレを選び、オレに何を求めた?」 「我が創った生命体が終焉を迎えるか否か、それを永住に選択してもらいたかったのだ。我の望み通りに、永住は選択した。人類を滅ぼす選択を」 「何故、オレなのだ?お前が創造した生命なのだから、お前が後始末をつけるのが筋だろ?」 「自分で創って自分で壊すのは、些か気が引ける」 「冗談は顔だけにしろ」 「酷いことを言うな。我にも情けはあるぞ」 「まあ、良い、話は理解した。さあ、ここからが本題だ。約束通り、オレの命を終わらしてくれるのか?お前の望みを叶えてやったのだから」 サルビは、大きな黒目をさらに大きくしって永住を見る。 「終わらせても後悔はないのだな」 「愚問だ」 「いや、嘘だ。お前は生きて、この星の生まれ変わる様を見届けたいはずだ、そう誓ったはずだ」 「だったとしたら、どうするのというのだ。オレは不老不死以外に、能力はない」 「それで十分。我の代わりに、永住がこの星を再生し、見届けよ。地球上では何万年の月日でも、ここにいる我等にとっては数日の出来事だ」 「意味が分からん」 サルビはニヤリと笑い、指先でパチンと音を鳴らした。その瞬間、バレーボールほどの地球が永住の目の前に現れた。 「これは・・・」 「今現在の地球だ。お前が見つけた小さな生命は大地にしっかりと根を張り、葉を付けて大木となり、実を付けて新たな生命をその大地に蒔いておる。お陰で緑が戻りつつあるのだ」 「おお、海までもが碧さを取り戻している」 永住は命の逞しさに身震いした。その姿を見たサルビは、 「ここで他の星を眺めつつ、地球をどう創り変えるか語り合わないか?」 と彼を誘うのだった。永住は振り返り、サルビは自分と同じように孤独だったのではと思った。 「面白そうだ、創造神にでもなった気分だ」 「人間らしい表現だ。もう一度、問う。永住よ、我と一緒にやるか?それとも、永遠の命を終えるか?選べ」 「やろう、この地球をもっと良いものにしたい」 「よし!ならば酒を飲みながら、今後の話でもしようではないか」 「ああ」 こうして永住は神の存在となり、地球の再生を、他の星々の行く末を永遠に見届けるのだった。 END
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