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カランカランカラン
来客を知らせる鐘が鳴り響く。アンティーク風の木製のドアの上、室内側に取り付けられたブロンズ色のベルだ。クリスマスツリーの飾りのように形も音も軽やかだ。店内は思いの他広々としていて、木目模様を生かした床、そして正方形のテーブルと椅子が温もりと癒しを感じさせる。ミニ向日葵や白百合の切り花が、窓辺や中央の長テーブル等にセンス良く飾られていた。
「いらっしゃいませ」
「いらっしゃいませ」
「いらっしゃいませ」
様々な声が山びこのように響き、すかさず彼女を出迎える。一番最初に迎えたのは、テーブルを拭いていたらしい若い女の人だ。まだ学生かもしれない。フリルのついたエプロン、深緑色のワンピース姿はビクトリア王朝時代のメイド服を彷彿とさせるデザインだ。帽子はさすがに被っていないが。やや遅れて、若い男性がやってきた。こちらもまた、ビクトリア王朝時代の執事のスーツとはこういうものか、と空想させるデザインだ。白いワイシャツに黒のスーツ。王道ともいうべきか。
時刻は午前6時。来客の彼女は、二十代半ばくらいだろうか。A4サイズの青いファイルボックスを小脇に抱え、黄色のショルダーバッグを右肩に下げている。デニムの半袖ワンピースに紺色のスニーカー姿だ。丸みを帯びたショートボブがよく似合っている。
「あの、電話で予約した鈴原です」
やや遠慮がちに声をかけた。
「鈴原様ですね。お待ちしておりました。こちらにどうぞ」
最初に出迎えてくれた女性が、笑顔で対応する。コップや水差しなどが置いてあるテーブルから、コップに水を注ぎ、銀色の丸いトレイを取るとその上に水、そしておしぼりを乗せて奥の方へと誘導した。
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