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「いらっしゃいませ」
「いらっしゃいませ」
厨房から男女の声。どうやら客にオープンに厨房を見せる作りになっているようだ。厨房の男性は文字通り白づくめにマスク姿。女性の方は桜色のエプロンドレス姿のようだ。やはりビクトリア王朝時代の食事担当のメイドをイメージさせる。
彼女が案内された場所は個室だった。どうやら喫茶のテーブルと個室とに分かれているらしい。そこはまず、巨峰とマスカット模様のステンドグラスの衝立で仕切られており、そこを開けると淡いパステル調のグリーンの壁に仕切られた個室が二つほど並んでいた。扉も壁と同じ色だ。そう言えば、占いやハンドマッサージなどもしているらしい。きっとこの個室で行うのだろう。もう一つは、彼女のように……。
「こちらで少々お待ちくださいませ。今、担当の者が参ります」
とウェイトレスは左側の個室へ案内した。奥の方の椅子へと誘導される。彼女が完全が座ったのを見計らって、トレイの上に乗せていた白いおしぼりとお水を、
「失礼致します」
と座った彼女の前に静かに置き、「失礼致しました」と声をかけて静かにドアを閉めて行った。店内ではパッヘルベルのカノンが心地よく流れている。個室は6畳ほどの広さで、ほぼ真ん中におよそ1.5m四方の真四角の白いテーブルが置かれている。ドア側の端の方に、パソコンが一台置かれていた。木製の椅子も白で、椅子の上に派パステル調のピンクの座布団が敷かれており、座り心地は抜群である。
入って左手、彼女から見たら右手には出窓があり、柔らかに日差しが注いでいる。白いレースと藤色のカーテンがマーガレットの造花三輪でセンス良くまとめられていた。とても居心地の良い空閑だ。
トントントン
ノックの音が響いた。続いて
「失礼致します」
と柔らかな声が響いた。
「はい!」
鈴本が答えると、静かに、ゆっくりとドアが開いた。
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