第二話 続・真帆の日常「え? 太宰治の霊???」

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第二話 続・真帆の日常「え? 太宰治の霊???」

 単位もしっかり取ったし、後は卒業まで気軽に講義に通って、気ままに部活に顔を出せば良い。部活動は「文芸部」だ。幼い時から、本が大好きだった。  小学生の頃、授業で「お話を書いてみよう」というのがあり、それ以来、自分でも小説を書いてみる、という楽しさに目覚めた。小説家になれたら良いな、と思ったりもしたが、現実はそうそう甘くは無い。先行き不透明な世の中のせいか、手に職をつけようとする人が増え、選択肢の一つの小説家を目指す人々が老若男女問わず星の数ほど出てきた。  それでも読書、小説や詩、和歌を書く事が好きな気持ちは変わらず。中学・高校・大学と文芸部を選んだ。高校の時に出会った「枕草子」と「源氏物語」で、美しい古来の日本語に目覚め、将来は高校の古典教師になろうと夢を思い描いた。文系私立大学に入学し、教職課程を選択。教員採用試験合格を目指して勉強に励む日々。  大学に入学した当初、小説を書く上でパソコンで良い資料は無いかと調べものをしている際、「あなたに合う本をお選びします。当店にしかない、世界でたった一つの本の中よりお選びします」というキャッチフレーズが目に留まる。  クリックしてみると『フォーチュン喫茶「本源郷」』とあり、更に「あなたが想いを込めて書いている物語を本にします。世界でたった一冊の本を作りませんか?」とあった。  強烈に惹かれ、その日は休みで特に予定のなかった真帆はすぐに訪ねて行った。  それが、真帆と『フォーチュン喫茶「本源郷」』との出会いである。そのまま本を選んで貰い、そこで自分の書いた、小説も何冊か置かせて貰った。気に入った彼女はそこでアルバイトをするようになったのだった。その時に勧められた本は、人魚姫の魔女視点から描いた大人の為の童話で、物事をみる視点によって感じる出来事、ひいては住む世界まで全く異なって見える事を改めて感じた。随分と気持ちが楽になったのを今でも思い出す。  来年4月からの就職先も、そこを選んだのだった。 電車を一つ乗り換える。何となく、背後で何かの気配を感じ取り我に返った。
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