1 季節と煙

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 現場は、瀬木根たちが生きていた世界とは、大きく異なっていた。いないものがいて、ないものがあって、起こり得ないことが平然と起こる。  まだすべてを把握したわけではないが、向こうの事情もそれなりにしった。 「他社に客を取られるぐらいなら、今回は客ごと殺してこいよ、瀬木根。判断するのお前だ」  仕事部屋の前で、神がつけ足すようにそう言った。  わかりました、と返し、瀬木根は扉を押した。すべてが白んでいる。瀬木根は踏み込んで、その空間に体を入れた。    その瞬間から、銃撃戦。  時間は動き出す。  この世界は仕事上、現世と呼ばれている。そして、住んでいるのはみんな天子だ。基本的には天子を守り、戦うのが自分たちだった。  思っていたような、地獄も天国もないらしい。でも、自分たちは死んだのだから、あの世なのはまちがいないだろう。  俺たちは、神は神でも、死神だった。クライアントも自分たちも、そうらしい。昔見た、古いエスエフ映画を全部混ぜた感じだ。いや、現実なんてそんなもんか。遠い未来だって思えば、納得できる部分もあるしな。  高層ビルの横、地下鉄の出入り口。瀬木根と赤羽は、体を低くしていた。  街。  水に囲まれた島だった。生きているのは、瀬木根と赤羽の二人だけで、他の四人は死んだ。応援はない。     
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