ただ、知っているだけ

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ただ、知っているだけ

 別に目からビームが出るわけでも、空を飛べるわけでもないが、もしこれが超能力だというのなら俺は超能力者なのだろう。  俺は知っている。  ハゲと噂の教頭の頭はヅラではないことや清楚な三丁目の弁当屋の姉ちゃんがじつは兄ちゃんなことや一丁目の奥さんの前の旦那が今どこでなにをしているか。虹の麓がどこへ繋がっているのか。テストはどこからどこまでで答えは何なのか。織田信長の死体と愛刀がどこへ行ったのか。今はまだ解かれていない数式の答え。  ただ、知っている。すべて。  おかげでテストは満点で、頭良い高校通ってる。  まあ、運動は普通だ。知っているというだけで超人ではないことを俺は知っている。  そして俺は知っている。同じクラスの香田昴というクラスメイトが元ヤンの女二人組に脅されたことを。  そしてその二人が香田を脅した割とすぐ後にヤクザの流れ弾に当たり倒れたところをた固定具が緩んでいたことで落下してきた看板に身体をペチャンコに押し潰されて死んだことを。  香田はその事を知らずにいるので教えることにした。 「香田ぁ」 「な、なぁに、高尾くん」 「なんか、最近女二人がヤクザの抗争に巻き込まれたあげくに落ちた看板に煎餅みたいに潰されて死んだらしいぜ。こえぇな」 「こ、こわいね」  声を小さくしてさらに告げる。 「だからよ、お前を脅してた女どもは死んだわけだから、あいつらのことは犬に噛まれたとでも思って忘れろ。お前の母ちゃんの治療費は母ちゃんの母ちゃん、つまりはお前のばあちゃんに昔助けてもらったっていう金持ちが今日助けてくれるから、だからもう変な稼ぎ方するなよ。あとその二人に撮られた写真とか動画とかその職場に働いていた事実だとかもその人に言えばなんとかしてくれる」  それだけ言うと香田はぽかんとしていた。香田の顔の前で手を振る。ハッと気がつく香田。 「確かに伝えたぞ」 「え、な、なぁんで、それ、それ」 「いや、俺もお前にそう伝えろと言われただけだから知らね」  そう嘘を言って俺は帰った。  俺は何もしてない。  ただ知っているだけ。  香田の祖母が恩人だという大金持ちが実は既に手を回して女二人事故に見せかけて殺したこととか実は大金持ちがフランス人であることとか香田が後に歴史に名を残す人物になることを、知っているだけ。  ただそんな彼に少しでも顔を覚えてもらいたかった、だけ。
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