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塩室に連れて帰り、屋敷を構えて彼と共に暮らしたい。珊瑚ほどの体躯があれば、いくらでも仕官の道はあるだろう。まずは屋敷を守る警護として、塩室の大臣に雇ってもらう。そしてふたりで働いて、屋敷を構えるための金を稼ぐのだ。幸い、自分は給金のほとんどを溜めていた。そう時間をかけずに実現させられるだろう。
(問題は、珊瑚がここから離れるか、だ)
泉の精だと信じている相手から、ここから出ようと言われたら、さすがに不審に思うだろう。そして正体を明かせば、どうなるか。
(いや、先のことはどうでもいい。それよりも、一度でいいから珊瑚とひとつに繋がりたい)
それさえ叶えば、握りつぶされて命を落としてもかまわない。いや、そうなったとして、珊瑚はどうなる。彼の心はひどく傷つき、そしてまたひとりになってしまうではないか。希望を与えた後で、それを取りあげるのは残酷だ。珊瑚を真に思うのならば、真実を伝えるべきだ。
(俺の望みばかりに目をくらませていた)
ちっとも珊瑚のことを考えていなかったと気がついて、栴檀の魔羅法師は反省した。急速な恋に心の目を曇らせていた。彼を愛するのならば、珊瑚の気持ちを一番に考えなければ。
(よし。正体を明かそう)
胸の内をすべてさらけて、彼に伝える。そのために殺されても、だました己の咎なのだから自業自得だ。
命を懸けて、真実を伝えようと腹を据えた栴檀の魔羅法師は、珊瑚の帰りを姿勢を正して待った。
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