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しばらくして、珊瑚が顔をほころばせて駆け戻って来た。息を弾ませながら、栴檀の魔羅法師がいることに安堵する。その姿に、栴檀の魔羅法師はふたたび胸を恋に焦がした。
「真実はさだかではないんだが、これは打ち出の小槌というものらしい」
珊瑚が取り出したのは、金色に輝く、螺鈿細工が施された見事な小槌だった。
「その昔、一寸の男がこれで大きくなって、姫と結ばれたと聞いている」
「どうして、そんなものを持っているんだ」
「どのくらい前だったかに、流れ着いた大きな船の、身なりのいい男がそう言って置いて行ったんだ。なぜか、この島に着く人間は、持ち物を置いて出ていく。船が壊れているときは、次の船が来るまでは、しばらくここで過ごすんだが、その場合も、品物を置いていくんだ」
「そういうものを集めておく場所があるのか」
「捨てるのも、悪いからな。食べられないものばかりだが、キラキラしていて綺麗なものが多いから、島の高い場所に集めてあるんだ」
すると宝がたくさんあるのかと、栴檀の魔羅法師は頭をめぐらせた。それを持って島を出れば、すぐにでもふたりの屋敷を手に入れられるかもしれないと考えて、すぐさま首を振った。
「どうしたんだ、泉の精」
「聞いてくれ、珊瑚。俺は、泉の精ではないんだ」
目をぱちくりさせて、珊瑚は首をかたむけた。
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