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「それほど清らかで美しい姿なのに、泉の精じゃないのか? 泉から湧き出てきたのに」
しっかりと首肯して、栴檀の魔羅法師は己のことと、なぜここに来たのかを語った。そして珊瑚にひと目惚れをして、ウソをついたと謝罪をし、殺されてもかまわないとまで言った。
「俺は、お前欲しさにズルをした。お前を連れて島を出て、屋敷を構えてふたりで暮らしたいと望んでしまった。そのために、泉の精のフリをして、珊瑚を手に入れようとしたんだ」
珊瑚はうまく呑み込めていないようで、じっと栴檀の魔羅法師を見つめて黙っていた。重い沈黙が洞窟内に垂れこめる。唇を硬く結んで、栴檀の魔羅法師は珊瑚の視線を受け止めた。
「……栴檀の魔羅法師」
「そうだ。それが、俺の名前だ」
「長いな。俺みたいに、珊瑚、というほどの長さがいい」
「え?」
「栴檀、で終わりにしないか。なあ、栴檀」
にっこりされて、栴檀の魔羅法師はとまどった。
「珊瑚、俺は――」
「正直に言ってくれて、うれしいぞ。栴檀は、殺されてもいいから、俺にきちんと謝った。お前はいいやつだ。そして、俺と一緒にいたいと言ってくれている」
「ああ、そうだ。俺は珊瑚といたい。珊瑚とずっと、共にいたい。この島から出て、多くの人や獣や鳥や、植物などに囲まれた土地で暮らしたいんだ」
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