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「泉と離れるのは、とてもつらい。だがな、それを取れば、また俺はひとりで過ごさなくっちゃならないだろう? 俺を外に誘ったのは、栴檀がはじめてだ。誰も共に行こうとは言ってくれなかった」
「珊瑚」
「それに、栴檀は俺に名を与えてくれた。俺を呼んで、欲しいと言ってくれた。俺はそれが、とてつもなくうれしい。こんなに小さくて美しいのに、俺を怖がらないどころか、共にいたいと言ってくれた」
珊瑚の声が細かく震える。目じりを光らせながら、珊瑚は笑った。
「だから、俺は栴檀と行く。栴檀のものになろう。俺をこの島から引き出して、共に生きようと言ってくれる栴檀と、いろんなもののいる世界に行きたい」
「珊瑚」
胸を詰まらせて、栴檀の魔羅法師は……いや、栴檀は両手を伸ばした。そこに珊瑚が顔を寄せる。
「俺を、栴檀のものにしてくれ」
とてつもない喜びに包まれて、欲望を発露させかけた栴檀は己を律した。
「いいや。ダメだ、珊瑚。それはできない」
「なぜだ。いま、大きくなれば舟に荷物が乗らないからか」
「そうじゃない。珊瑚はまだ、なにも知らない。俺をもっとよく知って、心の底から俺が欲しいと、俺と共にいたいと思ってくれたときにはじめて、その小槌を使ってくれ。俺は珊瑚に惚れているが、珊瑚は俺が一緒にいると言ったことに喜んでいるだけで、俺に惚れているわけではないだろう」
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