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雄々しい声がして、栴檀の魔羅法師は縄の影から様子をうかがった。それは褐色の肌をした、筋骨隆々の男だった。四角く精悍な顔立ちと、太い首。胸板は厚く、胸筋はみっしりと盛り上がっている。波打つ腹筋の力強さもしっかりと目に映ったのは、相手が腰に布を巻いただけの恰好だったからだった。布から、女の胴ほどもある太ももが見え隠れしている。
(なんと美しく、たくましい肉体を持った男だろう)
栴檀の魔羅法師はちょっとの間、男に見とれた。男の足が舟に乗せられ、締まった足首が栴檀の魔羅法師の目の前に来た。そこに刀を突き立てれば、腱を裂いて大きな痛手を与えられるだろう。だが、それをするのは少しかわいそうだと彼は思った。
(なんの目的で、舟を引き寄せているのかを知るまでは、むやみに傷つけないでおきたい)
それは栴檀の魔羅法師が、現れた男の持つ雄々しい美貌に心を震わせているからでもあった。自分とは真逆の美しさを持つ、塩室でも見たことがないほどの美丈夫ぶりに、ほれぼれとしてしまっていた。
(なんとかして、彼が欲しいものだ)
栴檀の魔羅法師は、舟を物色する男をじろじろと観察しながら、胸に欲望を湧き起こさせた。まさにひとめぼれであった。
「人は乗っていないのか」
ぽつりとつぶやいた男は、舟を引きずって海から完全に砂の上にあげた。その声は、どこかさみしそうだった。
作業をする時に込められた力で盛り上がった腕の筋に、栴檀の魔羅法師は胸をときめかせた。なにもかもを自分のものにしたいと、強い衝撃に見舞われる。
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