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栴檀の魔羅法師と珊瑚鬼
その青年は、きりりと引き締まった眉と薄い唇を持っていた。鼻筋は通っており、目は黒曜石のごとく輝いている。肌は白く絹のようになめらかで、頬には健康そうな血の気が桃色に浮かんでいた。
誰がどう見ても紅顔の美青年と呼ぶ彼の唯一の欠点は、身の丈が五寸ほどしかない、ということだった。それは彼が、尋常の人ではなく、栴檀の実から生まれた妖の者であった。けれど、彼の生まれた時代は人と妖が無理なく共存する時代であったから、彼もまた当然のように受け入れられ、美しい姿かたちと立ち居振る舞いから、塩室の大臣に気に入られて仕えていた。
彼はその身の丈が五寸ほど、人の魔羅より少し大きい程度だったので、栴檀の魔羅法師と呼ばれていた。法師とは僧侶のことでもあるが、男の子という程度の意味でも使われていた。
平和に過ごしていた人々だったが、ある夏の熱い頃から、ぼんやりと海のかなたに濃霧が湧くようになった。
その先から恐ろしく野太い声が聞こえて、商船や漁船が霧に呑まれて帰ってこない日が出てくると、人々は怯えて暮らすようになった。恐ろしがって船は出ず、塩室には物資が届かなくなり、また海の恵みも食膳に上らなくなってしまった。
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