0人が本棚に入れています
本棚に追加
「え? そうなんですか?」
「小学6年の時にね、近所の人が散歩させてたチワワをなでようとしてかみつかれちゃった事があって。それ以来犬はダメ。小さい犬でも子犬でもダメ」
「そうなんですか」
私は他に言いようがなくて、同じことばをくりかえした。
りょうこさんがブランコにすわったので、私もとなりのブランコにすわった。
こぐとはなしにゆれるままにしていると、ブランコの金具がきいきいと小さくきしんだ。
「私が悪いの。かわいいチワワを見つけて、走りよって頭をなでようとしていきなり手を出したから」
と言ってから、りょうこさんは私の方を向いて、
「…ちゃんと飼い主さんになでてもいいですか?とは聞いたのよ。でも、手の出し方がとうとつで、チワワもビックリしちゃったと思うんだ。で、出した手をがぶってかまれちゃった」
と、なんだか子どもが言い訳するみたいに付け加えた。
「おかしいよね、そんな子どものころの事で大人になっても犬がダメなんて」
と笑った。
そっか。おこってたんじゃなくてこわかったんだ。
私は笑う気にはならず、
「おかしくないです」
と言うのがせいいっぱいだった。
「そう? ありがと」とりょうこさんはほほえんだ。
あれは確か、りょうこさんがパパとけっこんして間もなくのことだった。
いっしょに暮らし始めて間もなくのころ。
パパとりょうこさんはけっこん式はあげなかった。
たぶん、私に気を使ったんだ。
りょうこさんには家族がいなかったから、りょうこさんが荷物を持って私のウチに引っこしてきただけ。それでおしまい。
最初のコメントを投稿しよう!