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草吾は、二三度瞬いてから、手を伸ばしてナオの頭をぐしゃぐしゃにした。何度もやられているのに、どうしてか避けられない。ちょっと、と抗議されてもしばらく手は頭から離れなかった。
「草吾さん!」
「お前なら出来るよ。なにしろ、人の生き方を知っているからな」
電車広告の、あふれかえるメッセージは、いつでも草吾に訴えかける。
見えない誰かに対する、眩いくらいの呼びかけは、人の中のどこかに他人が折り重なって居座っている証拠に見えた。誰かの事を考えて、いろんなルールがあって、時に自分が縛られる。
眺めるたびに思う――やっぱり、もう自分は人間じゃないな、と。
これ以上、他を抱えることもなく、輪の外側にしか立てない自分は、人間ではない。
同時に、どんな縁を持たない標的たちもまた、同様だと。
「誰かの手を掴みたい。誰かに手を伸ばされたい」
手を伸ばすことが、選択肢に浮かばない自分とは違う――
「それってさ、つまりは愛されたくて、愛したいって事だろ?」
人は誰もがきっと、必ずどこかに抱いている願い。
たとえ、言うほど簡単なはずがなくても。
「お前には……そういう記憶があるんだってな。 だったら、きっと出来るよ」
「閻魔様から聞きましたか」
「立ち話で聞いていい内容じゃなかったけどな。俺とは違う、でも記憶を背負った死神だって言ってた」
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