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 お、と空の一点をさして、草吾がナオに見ろよと促す。  どうやら、磯部が様子を見にやってきたようだ。隣には、黒いワンピースを着た小柄な少女がいた。手を振れば、高度を下げた。乗せてくれるようだ。  行こうぜ、と立ち上がった草吾に続こうとして、ナオは芝に足を取られてよろけた。視界の端で、草吾がおいおい、と手を伸ばして――次の瞬間、目の前にあったのは、濃緑のフードだった。 「ちょ……なにするんですかっ」  背中に握りこぶしで抗議しても、荷物は黙ってろよ、と相手にしてもらえない。声がおかしそうに震えている。  体を、腕を支えにして起こす。目に留まったのは、今は何もないベルトに付いた銀色の金具で……ふと、霞がかった映像が頭に浮かんだ。  逆さになって、淡く光る回収ポットが、一つ。  それは――記憶と呼ぶにはあまりにも曖昧で儚い。  けれど。 「覚えておく。お前のセリフも。馬鹿みたいに楽しい今も……俺を守った人も。俺をかばった人間も」   ぽん、と軽く背中を叩かれる。 「――俺が救いたかった人も」  低い声が、直に響いた。  ナオの目が見開かれる。反芻して噛み締めた言葉の意味に、胸の中がじんわりと温かくなって、同時にやるせなさに苦しくなった。  彼の中に残るのは――彼より前に死した人の記憶であるゆえに。
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