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ああ、と。ようやく――ナオは、心の底から納得した。
この人は。
「草吾さんは――死神なんですね」
安堵にも似た言葉だった。柔らかく微笑みながら告げられた声に、草吾は一度面食らってから……いきなり、ふっと吹き出した。
「なっ……なんですか」
何がおかしいのかと、やや憤慨しながら、ナオが抗議する。悪い、と右手が上がった。
「いや、思い出し笑い。まったく同じことを言われなぁって」
「どなたにですか?」
「研修教官の……」
「百道さん、ですか」
そうそう、と草吾がうなずく。悪戯が見つかった時のような表情に、何か仕出かしたのでは、とナオは疑いたくなってしまった。
「あの人も苦労性でさ。俺がこんなで、閻魔も放置はできないってんで、様子見しようって話になった時に、あの人に丸投げしたんだよ」
「ま、丸投げ……」
「そ。そんだけ信用されてたんだろうけど……教官の仕事と、俺の見張りで、マジ仕事量二倍だぜ。負担だって馬鹿にならないのに、真面目過ぎて手抜き知らないんだよな。俺の隣で、俺より魂回収した上に、遅いだ鈍いだって言いながら、蹴飛ばしてくれてさ――ホント、あれは驚いた」
確かに、とナオはものすごく厳しいと評判な教官を思い出す。百道キナという死神は、自分にも厳しいが、他人にも容赦ないタイプだ。だからこそ教官と言う立ち位置が務まっているとも言える。
「でもさ。結論出すって時に言ったのが、今のナオと同じセリフ――『お前は死神なんだな』ってさ。で、だからもっと胸を張れって」
胸を張れ、なんて。面映ゆいばかりで、けれど、淡々とした一言は、草吾の中に確かに根付いた。
死神だと、はっきりと告げるようになれたのは、あの言葉の後だ。
諦めるのではなく、受け止めるようになれた。
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