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料金を支払ってレストランを出ると、僕は聞いた。
「これからどうする?」
「今日は、帰るわ」
彼女は疲れたように言った。いや、実際疲れていたのだろう。僕も疲れていた。彼女といると、疲れる。二人の間には、沈黙の時間が多くなっていた。
そうして、車で家まで送って、彼女を降ろした。
彼女は、さよならも言わなかった。だからだろうか? 僕があんなことをしたのは。
ただ僕の頭の中では、妙な雑音がしていた。それがあんまりうるさくて、僕は彼女を車でひいたのだ。雑音を消したくて、僕は何度も何度も彼女をひいた。
警察に説明しても、理解してもらえなかった。
「音が、うるさくて」
何度もそう言った。けれど取り調べの刑事は、何の音だって、しつこく聞いてくる。
そんなこと知らない。僕だってわからない。こっちが教えてほしいくらいだ。
あれから二年が経つ。僕は今日も、膝を抱えて座っている。彼女の上にタイヤが乗り上げた時の、体が浮くような感覚が残っている。
塀の中は、ひどく寒い。
雑音は、ひどくなるばかりだ。
(了)
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