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マストドンワンライ(テーマ:信号機)
※ホラー
『深夜二時、学校から数えて三番目の信号が一斉に赤信号になって――』
それから何だっけ、最後に言われた言葉が思いだせず、片岡は首を傾げた。
中学の時に聞いた与太話だ。
実際、朝の四時ならまだしも夜中の二時はそれなりに人はいる。
あの交差点に限ってならどうかは知らないけれど、少なくともこうやってコンビニは営業しているし、店員もだるそうに接客をしてくれる。
コーラとスナック菓子。特にどうしても食べたかった訳ではないし、二時の交差点がどうしても見たかった訳でもない。
ただ、唐突にガキの頃した話を思い出しただけだ。
スマホを見ると丁度、午前一時五十九分を回ったところだ。
目の前の信号は歩行者用の緑がチカチカと点滅している。
走れば間に合うかもしれない。
けれど、ほんの少し、確かめてみたい様な気がして歩幅を緩める。
目の前の信号が赤に変わる。
あーあ。
そろそろ二時だ。どうせ何も起こらないんだろうなと交差点まで近づくと、反対側の信号を覗く様に眺める。
赤だ。
目の前の信号も赤。反対側も赤。
スマートフォンを確認すると丁度二時だった。
それがどうした。
両方赤だからといって、それでどうなる。
聞いた話の続きは何だっけ。
そもそも、誰から聞いた話だ?
赤い光が横断歩道に反射している。
「おお、片岡じゃん!!」
後ろから声がして、大げさにびくりと震える。
「あ、ああ……」
誰だっけ、と思ったところでその男が常盤だと気が付く。
そうだ。中学の時の話は彼に聞いたのだ。
ふと彼から視線を信号機に戻すと緑色が点滅している。
偶然、赤になっていただけなのだろう。機械の不具合か何かで夜のほんの短い時間だけ赤が重なるのかもしれない。
「久しぶり」
最後に会ったのがいつなのかも覚えていない中学時代の友人に声をかける。
「なに? 片岡もコンビニ?」
常盤も多分コンビニに行った帰りなのだろう。そう聞かれて頷く。
常盤が住んでいるのはこっち方面だったか、よく思い出せない。
共通の話題も何も思い出せなくて先ほど思い出したことを聞いてみる。
「なあ、『深夜二時、学校から数えて三番目の信号が一斉に赤信号になって』の後ってなんだっけ?」
常盤は笑った。
ガキの頃の話を突然持ち出したのがおかしかったのだろうか。
しかもこんな深夜に。
別に覚えてないならいい。そう言いなおそうとして常盤にさえぎられる。
「一人、記憶に増えるんだよ。今まで知らなかった筈の人間が」
なんだそれ。
そんな、確認のしようもない内容だったか。
確認できないしようも無い内容だから、中学生の怪談になったのか。
「誰か、記憶に追加されたか?」
常盤がニヤリと笑って、少しだけ気味がわるくて「なんだよそれ」と返した。
誰も増えていない、はずだ。
子供の噂話だ。
また緑色になった信号をみて、「それじゃあまた」と常盤に声をかけた。
「ああ、また」
常盤が返すとようやく足が動き始めた。
それから家に帰りついて、俺に常盤なんて知り合いがいない事に気が付く。
彼の顔も思い出せない。
彼は一体誰だったのだろう……。
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