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大晦日の話
「おい、そうやってガチャガチャ、チャンネル変えるなよ」
見ていた大晦日のお笑い番組を突然、格闘技に変えた蓮見をみて思わず一言声をかけた。
「えー、別にいいじゃん、こっちも気になるんだし」
すでに寝転がった体制で言う蓮見はリモコンから手を離さない。
「そうやってやってると、どれも中途半端で訳わかんなくなるだろ気になるんなら録画しろ」
「えー、別にそこまでしてみたい訳じゃないし、大みそかのテレビなんてそんなもんだろー」
ぶーぶーという擬音が付きそうな声で文句を言う蓮見にさっきまでの苛立ちはどこかに霧散してしまう。
大晦日なんてそんなもんか、今こうやって二人で居ることが蓮見にとって普通になっていることが、ただただ嬉しかった。
胸のあたりから熱いものがこみ上げてくる。
ゴロゴロしていた蓮見が俺の顔を見上げてぎょっとしていた。
「そんなに嫌だったのか?」
「違う。違うんだ」
恐る恐る聞いてくる蓮見に違うとしか答えられない。
熱いものが涙になって目から流れ落ちる。
どうしたら伝えられるのか分からず口にできたのはこれだけだった。
「愛してる。蓮見愛してる」
「ん!?知ってるよどうしたのさ、突然。」
そう言いながらも蓮見は起き上がって俺の横に座ると背中をさすってくれた。
いよいよ鼻水まで出てきた気がする。
半ばしゃくりあげながら、「好きだ」と呟くと
「分かってるよ」
と返された。
背中を撫でていた手が俺の手まで降りてきて、落ち着かせる様に手をゆっくりと握ってそのまま優しく揉みこまれた。
「ふたりで、ゆっくりテレビみよーね。」
蓮見が言った言葉に俺はただうなずいていた。
了
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