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戸を叩いてしばらく待っても、誰かが出てくる気配はない。
何度か叩くが、やはり出ない。
(オラ、このまま飢えて死んじまうのかなぁ……?)
暗闇、空腹、疲労が重なり、かおるの思考はどんどん悪い方へ進んでいく。
声を上げて泣きたくなったその時、目の前に人の気配がした。
「いんやぁ、まさか白無垢を着た人間の娘を寄越してくるとは……。100年はあっという間やねぇ」
しみじみと言う声に顔を上げれば、すらりと背の高い男が立っていた。
「た、祟り神様……?」
かおるが上ずった声で尋ねると、男はキョトンとした後に、豪快に笑った。
「あっはははっ!ま、似たようなものかいのぉ。お上がり、花嫁さん。腹も減っちょるじゃろう」
男は神殿の戸を開けると、手招きをした。
かおるがふらふらと神殿に入ると、不思議な事が起きた。
疲労がすぅー、と消え、足の痛みも無くなったのだ。
「どういうこっちゃ……?」
驚いて自分の躰を見ると、白無垢がいつの間にか濃紺の浴衣に変わっている。
「疲れたままでは辛かろう。白無垢より浴衣のが動きやすい思いましてな」
声のする方を見ると、男はちゃぶ台の向こう側に座っていた。
「本当に、祟り神様……?」 いい事ばかりするので、かおるは思わず疑いの目を、男に向けた。
「話したるからこっちに座り?あぁ、喉も渇いてますやろ?」
男は手招きをしてから、ちゃぶ台の上に何かを置く素振りを見せた。
すると何も無かったちゃぶ台の上に、竹筒で出来たコップが現れた。
「すごい!」
ちゃぶ台の前に座ったかおるは、並々と水が入った竹筒を見つめた。
「見ちょらんで、飲んだらえぇじゃろ。ほれ、栗大福」
男は皿を置く素振りをする、すると大きな饅頭がふたつも乗った皿が出てくる。
「いただきます!」
喉の渇きと空腹が限界に来ていたかおるは、水を勢いよく飲み始めた。
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