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不思議な事に、飲み干したはずの水は、再び並々と竹筒の中で揺れていた。
「あれ?飲んだはずなのに」
「神のなせる技だ。お前が満足するまで、水は尽きん。違うものが飲みたいなら、念じてみ?」
顔を上げれば、男は得意げに笑った。
(冷たいお茶、冷たいお茶……)
試しに念じてみると、水は緑茶になった。おまけに氷まで浮いてる。
「さて、あんさんの名前は?」
「かおるって言います。貴方様の事はなんとお呼びすれば?」
「自分、名前なぞ持っちょらんからのぉ。タタリでえぇわ」
男は適当に名乗ると、かおるに様々な事を教えた。
自分は神の中でも下っ端で、神殿には年に1度しか帰れないこと。
人間達に試練として天災を与えてるため、祟り神様と恐れられていること。
そして、100年に1度だけ、人間の花嫁を捧げられること……。
「今までは他所の集落に花嫁として来た娘を逃しとったが、今じゃここらは集落なんぞ、あれしかないからのぉ……。ここに居ってもらうしかないわ、堪忍な」
タタリは申し訳なさそうに言う。
「元々死んだつもりでここへさ来ました。生かしてもらえて嬉しいです」
「ええ子やなぁ。せや、何か質問はあるがか?」
「タタリ様は不思議な言葉を話されるのですね」
「あぁ、これなぁ。日本各地歩ってると地方の神様と仲良うなってな、それで色んな訛りが混ざってしもうて」
タタリは頬をポリポリ掻きながら、困ったように笑った。
それからかおるとタタリの奇妙な生活は始まった。
口に入れるものはすべて、タタリが神力で出してくれる。
かおるの仕事は、神殿の掃除だ。
タタリは何もしなくていいと言ったが、働き者のかおるは掃除だけでもと、仕事をねだった。
食事や服はタタリが用意し、かおるは掃除をする。
空き時間には、タタリが旅の話をかおるに聞かせたり、近場を歩いたりして共に過ごした。
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