祟り神様

3/5
前へ
/13ページ
次へ
不思議な事に、飲み干したはずの水は、再び並々と竹筒の中で揺れていた。 「あれ?飲んだはずなのに」 「神のなせる技だ。お前が満足するまで、水は尽きん。違うものが飲みたいなら、念じてみ?」 顔を上げれば、男は得意げに笑った。 (冷たいお茶、冷たいお茶……) 試しに念じてみると、水は緑茶になった。おまけに氷まで浮いてる。 「さて、あんさんの名前は?」 「かおるって言います。貴方様の事はなんとお呼びすれば?」 「自分、名前なぞ持っちょらんからのぉ。タタリでえぇわ」 男は適当に名乗ると、かおるに様々な事を教えた。 自分は神の中でも下っ端で、神殿には年に1度しか帰れないこと。 人間達に試練として天災を与えてるため、祟り神様と恐れられていること。 そして、100年に1度だけ、人間の花嫁を捧げられること……。 「今までは他所の集落に花嫁として来た娘を逃しとったが、今じゃここらは集落なんぞ、あれしかないからのぉ……。ここに()ってもらうしかないわ、堪忍な」 タタリは申し訳なさそうに言う。 「元々死んだつもりでここへさ来ました。生かしてもらえて嬉しいです」 「ええ子やなぁ。せや、何か質問はあるがか?」 「タタリ様は不思議な言葉を話されるのですね」 「あぁ、これなぁ。日本各地歩ってると地方の神様と仲良うなってな、それで色んな訛りが混ざってしもうて」 タタリは頬をポリポリ掻きながら、困ったように笑った。 それからかおるとタタリの奇妙な生活は始まった。 口に入れるものはすべて、タタリが神力(しんりょく)で出してくれる。 かおるの仕事は、神殿の掃除だ。 タタリは何もしなくていいと言ったが、働き者のかおるは掃除だけでもと、仕事をねだった。 食事や服はタタリが用意し、かおるは掃除をする。 空き時間には、タタリが旅の話をかおるに聞かせたり、近場を歩いたりして共に過ごした。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加