習わし

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2018年、たくさんの家電やデバイスが出回り、便利な時代。 隣同士にいるというのに、スマホで会話したり、1台のエアコンで年中快適に過ごせたり……。 とにかく便利な時代だ。 技術の国、日本にはオール家電の家まで出てくる。 そんなハイテクな日本だが、未だに時代に取り残された集落がいくつも存在する。 この物語の主人公、かおるもその1人だ。 かおるが住む集落は、連なる山々のひとつにあった。 家電といえば、冷蔵庫と扇風機がある程度で、新しくて10年前に出た製品だ。 スマホは疎か、家の固定電話だって(おさ)の家にひとつあるのみ。 学校もまともなものはない。 公民館に集まり、大人達が代わる代わる『いろはにほへと』や、足し算引き算を教える程度だ。 かおるは16になる娘で、真面目で働き者だ。 背は低いが、愛らしい顔立ちをしている。 真面目で可愛いかおるは、集落では評判の娘だ。 ある秋の日、かおるは川から水を汲んで家に帰った。 母は台所で食材を切っていた。 「ありがとう、かおる。助かるよ」 かおるに気づいた母は、かおるが汲んできたばかりの水、を鍋に移しながら言った。 「これくらいいつでもするよ。おっかちゃん、後なにしよっか?」 「あとは……そうさねぇ……」 母がどんな仕事を頼もうか考えていると、勢いよく戸が開いた。 腰が曲がり、顔中シワやシミだらけの醜い老婆が入ってきた。 白髪はボサボサで伸びっぱなし、黄色く濁った目玉は、ギョロリとこちらを睨んでいる。 この老婆こそが、集落の長である。 「(おうな)様、どうかなさいましたか?」 母は老婆の前まで行くと、膝まづいて質問をした。 かおるも母にならって、媼の前に来て跪く。 “媼”とは、本来老婆を指す言葉だが、誰も彼女の名を知らないため、集落の者は彼女を媼と呼んだ。
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