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「明日はお前らも知っているとおり、祟り神様をなだめるための神祭がある。占った結果、かおる、お前を生贄にしなければならない」
「そんな……!なんでかおるが……。そもそも今まで生贄なんてした事」
「占いの結果と言ったじゃろう!」
媼は声を荒らげ、母の言葉を遮った。
「いけ、にえ、……?」
かおるは初めて聞いた言葉を繰り返すように、途切れ途切れに口にする。
「今までは確かに生贄なぞはしなかった。それは時期ではなかったからじゃ。100年に1度だけ、祟り神様に生贄を捧げなければならない。それが今年なのじゃよ」
媼は淡々と語る。
「なんでよりによってかおるが……。私が生贄になります! だからどうか、かおるだけは!」
母は泣きながら、媼にすがった。
媼は老婆とは思えないほどの怪力で母を振り払うと、ギョロっとした目玉で母を睨みつけた。
「祟り神様に捧げるのは生娘と決まってるんだよ!お前みたいに子を産み、穢れた女なんか差し出したら、それこそ祟りが来ちまうよ!」
母は何度も床を叩き、声を上げて泣いた。
「おっかちゃん、大丈夫、大丈夫だから……」
かおるは母を抱きしめ、背中をさすった。
「かおる、なんでお前が選ばれちまったんだよぉ……かおる……」
母はかおるを抱きしめ、何度も愛娘の名を呼んだ。
「逃げようなんて、変な気を起こさない事だ。明日の早朝、迎えをよこす」
媼はしかめっ面で言い捨てると、戸を閉めずにその場を去った。
入れ違いに、まだ畑仕事をしているはずの父が入ってきた。
「かおる!」
父はかおると母を抱きしめた。
「あんた!かおるが、祟り神様の生贄になっちまったよ……」
「あぁ、さっき聞いてきた……。もう、皆が知ってる……。ごめんな、かおる……。守ってやれなくてごめんな……」
父は今にも泣きそうな顔で言う。
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