習わし

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「い、今行きます!」 かおるは声を張り上げ、母の手を振りほどいて家から出た。 そこには鬼の形相の媼と、松明を持った男達がいた。 (さっきの音、この人らが家を叩いたんだろか?) かおるは男達を見ながら、そんな事を考えた。 「媼様……」 振り返れば、両親が小刻みに震えながら立っていた。 「かおる、ついてこい。男は向こうで待ってろ!」 媼は父を睨みながら、祭壇がある方角を、顎で指した。 「分かりました……。かおる、ごめんな……」 父はかおるに深々と頭を下げると、数人の男と共に、祭壇の方へ歩き出した。 「お前らはこっちだ」 いつの間にか松明を手にした媼は、ついてこいと目配せをし、祭壇とは逆方向へ歩き出す。 母はずっと、かおるの手を強く握りながら歩く。 媼は集落から出ても足を止めない。 森に入って少し歩くと、左側がぼんやりと明るい。 「媼様、あれはなんでしょか?」 かおるは明るい方を指さし、媼に聞いた。 「あそこは水神様の湖だ。あそこで身を清めるんだよ」 かおるは「こんなに寒いのに?」という言葉を飲み込み、そうですか、と短く言った。 湖に着くと、奇妙な光景が広がっていた。 湖は白く背の高い布に覆われ、その周りにいくつもの灯篭が立っている。 「美代子、お前はここで待っていろ。かおる、お前はこっちだ」 「かおる……」 母は心配そうに、かおるを見つめる。 「おっかちゃん、オラちっと清めてくる」 かおるはにっこり笑って言うと、媼と共に、白い布の中へ入った。 布の中に入って最初に目に付いたのは、ちょうど向こう側にいる女達。 彼女らは神子装飾に身を包み、顔は半紙の様なもので隠している。 そんな女が、3人もいた。 「かおる、まずは服を脱げ、下着もだ。そしたらあの女達の元まで肩まで浸かって歩くんだよ。上がったら女達が白無垢をお前に着せてくれる」 母に聞こえないようにするためか、媼は声をひそめて言った。
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