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少女の目に、一瞬だけ赤黒い影が落とされた。
「施設の前に捨てられたと知らされた日、私は母親を捨てました。希望を持つぐらいなら、……いなかったと思うように。だって生まれてすぐの赤ん坊を施設に捨てたんですよ」
漫画みたいですよね、と少女は笑ったが女性は笑わなかった。
「だから、母親のイメージはないです。私の中のマリアさまは、私を育ててくれた施設長がイメージです」
クッキーを美味しそうに食べながら少女は言う。
「私のいる施設は、経営はよくないし、それなのに利用者はどんどん受け入れるし、施設長は毎日毎日私達の為に戦ってくれてました」
そして、女性をじっと見つめ、真面目な顔で言った。
「私を生んだ母親は戦ってくれず逃げました。絵は、子を生んだ母親をイメージしては無いです」
女性は唇が震え、言葉を漏らす事さえ出来ずにいた。
「無償の愛で子どもを守る女性をイメージしてるんです」
少女は空になったコーヒーカップをじっと見つめていた。
「清らかなイメージだけじゃないのは、大人だって分かってるはずなのにね、中学生相手に本当に大人気ない」
少女の瞳は揺るぎなく透き通っていた。
女性は何も言えず、ただただ少女を見つめるだけだった。
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