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「貴方にお会いできて……本当に良かったわ」
女性はまっすぐに少女を見つめそう静かに告げる。
「私が貴方と同い年だった時に、聖母なんてイメージ湧かなかったわ……」
そして、目蓋を閉じて涙を流した。
「私も戦える程に、強い母親になりたかった……」
女性はお腹を押さえて、ゆっくり微笑んだ。
少女は微笑み返さず、ずっと女性を見つめ続けていた。
お互い、会いたかったと口にしながら、核心を語る事もせず、互いの傷に脅え、伝えたかった事を飲み込んで耐えるしかない。
少女にとっての聖母は、自分を守って育ててくれた施設長。
生まれてすぐに捨てられてた自分を、戦って守ってくれたから。
貧しくても、古い建物の奥の教会で調律のメチャクチャなパイプオルガンで聖歌を歌うのが好きだった。
よれよれのお下がりの服は、施設の屋上で一斉に干すので、いつもおひさまのいい匂いがした。
夜中に泣きたくなったら、お布団にもぐることを許してくれた。
お金じゃない、肉親でもない、そんな喜びや幸せを与えてくれた。
「母親を捨てた日、私はマリア様を見つけたのです」
本当の母親じゃなくても、本当に愛しいと思ってくれたなら、例え、聖人であろうと剣を抜いて戦うだろう、
――そうあって欲しいと強く強く願って、少女はあの絵を描いたのだから。
少女は無言で部屋を出た。
女性は追いかける権利もなく立ち尽くすだけだった。
ドアのすぐ隣に、スーツの男は控えている。
機械的にエレベーターのボタンを男が押す。
「一人で帰れます。貴方は先生の所にでも行って下さい」
少女が澄まして男に告げると、男は苦い顔をした。
「――やっぱり、気づいていてコンクールに応募したんですね」
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