#5 過去の情景

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 名前…。私の名前はなんだった?   そしてどうしてこんな所にいる?  私は誰? 年は? 両親はどこ?  何もわからないということが、こんなにも恐ろしい。いったい私はどうなっていると言うんだ? 「あなたたちは誰? 僕は……僕は?」   自分が誰なのか知りたがる私を、二人は心痛な面持ちで見つめていた。  自分の全てが見えず、理性も思考も働かない。  私を知っている人がいるなら教えてほしい。  私は「誰」なのかと。 「いいんだ、今は何も考えるな。熱が下がったら、あとでゆっくり教えてやる。春樹もおまえのことを心配している。身体を治して、春樹とまた遊んでやってくれ」  その名前を聞いて、私の頭の奥を何かが刺激する。それは暗闇を切り裂く閃光のようで。  『はるき』  鍵をかけられた私の記憶の奥。その名前の響きは私の何かを思い出させようとするのに、身体の熱さと怠さがそれを遮断する。  視界がぐるぐると回る。不安、迷い、恐怖…いろんな感情がない交ぜになって私を襲う。  もう、何も考えられない。  でも何か大切なものを取り落としてることだけはわかる。それを忘れたら絶対にいけない気がするのに。 「僕……ぼくは……」     
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