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あの人以外の人間が、スライムという生き物を嫌悪しているということは知っている。
だから、この屋敷の掃除をしている人間にゴミを見る様な目で見られても、仕方が無い。
そういうものだ。
人間と自分たちは長い間戦争をしてるのだ。
スライムである自分たちは戦力として数えられる様なものでは無いこと位知っているけれど、それでも憎悪の対象なのだ。
瓶に詰められて針で刺して遊ぶための玩具として売られている同胞もいると聞く。
これが当たり前の扱いなのだ。
実際勇者と出会った時だって似たようなものだった。
だから、仕方が無い。
棚の上でぼんやりと窓から外を眺めていた。
まるで物の様に、振り払われて床に落ちていく。
スライムは空を飛べるわけでも、瞬発力がある訳でもない。
だから床が見えた後何が起こったかはよくわからない。
気が付くと、勇者の手の上に乗っていた。
彼がいつ帰ってきたのか、いつこの部屋に入ったのかも知らない。
多分誰も気が付いてはいなかった。
ただ、今分かることは見上げた勇者がものすごい表情で使用人の顔を睨みつけているということだけだ。
「今すぐ出ていけ。」
いつもの、べっとりとまとわりつく様な甘い声とは程遠い声で、勇者が言う。
ひっという悲鳴を残して、使用人はバタバタと部屋から出ていった。
「大丈夫だったかい?」
ああ、いつもの気持ち悪い勇者だ。
僕のことを見る目も、声色も相変わらずおかしいのに、どこかほっとしてしまう。
飼いならされてしまったという事だろうか。
そう考える思考が止まる。勇者が僕の体を撫で始めたからだ。
粘液が勇者の手についているのが分かる。
この勇者はバカだ。
だけど、何も言うこともできず仕方が無く目を閉じた。
勇者が喉の奥で低く笑った声が聞こえた。
それはとても満足げなもので、どうしていいか分からない気持ちになった。
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