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ヤンデレ
最初は勘違いだと思った。途中からああ、藤丸はちょっとヤバいやつだから波風を立てない様に、やり過ごそうと決めた。
ストーカーは相手にすればするほど妄想を膨らませるらしい。あれは多分ストーカーと似たようなものだろう。
だからって何でこうなるんだよ。
俺を押し倒した藤丸は嗤っている。
けれど、こんな気持ち悪い笑顔を浮かべているのは見たことが無かった。
藤丸は整った顔立ちだからニヤニヤと笑っていても、周りからは素敵な笑顔だと勘違いされていた。
だが、今の表情はさすがに誰が見てもおかしいと思うだろう。
そういう笑顔だ。
「や、止めろよ……。」
こんな時ですらぼそぼそと話す事しかできない自分が恨めしい。
「え?なんで?」
不思議そうに聞かれる。なんでってそりゃあ
「嫌だから、やめて欲しい。」
それ以外に無いだろう。今まで藤丸は一回でも俺に良いか?とか一緒に帰っていい?とか確認や了承をとったことは全くと言っていいほど無かった。
全て自分勝手にやってきて、なんで?と聞かれてもこちらが困る。
「なんで?だって、本気で嫌で嫌でたまらなくて、何より優先して俺から逃げたければ逃げられる程度に手加減したでしょ?」
何で逃げなかったの。そう聞かれて全身に鳥肌がたつ。
だって、しばらく我慢すれば嵐がすぎ去ると思ったのだ。
相手なんかより取り見取りの藤丸はすぐに俺に飽きて他へ行くと思っていた。
なりふり構わず逃げ出さなければいけなかったなんて知らなかった。
肉食獣なんて生易しいものではない。何を考えているか分からない獰猛な昆虫の様な男に捕まってしまって初めて気が付くなんて。
涙がぼたぼたとこぼれる。
もう逃げられないということが本能的に分かった。
「泣いている顔もかわいいね。」
そんな俺を気にした様子も無く藤丸はそう言って、涙を拭いた。
愛とか恋とかそんな綺麗な物じゃないんだろう。
自分が世界で一番可愛そうな生き物になってしまった気がして泣けてしょうがなかった。
了
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