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この世界では時々前世の記憶をもって生まれてくる人間がいる。 もっている記憶によっては科学技術の発展に寄与したりしているらしいが、ほとんどは夢を見た記憶が残っている程度でなんの意味もない役に立たない情報が頭にあるだけだ。 それに、そもそも同じ世界の同じ時代の記憶を持っている人間に出会うこと自体極めて稀だ。 だから、目の前にいる男もきっと他人の空似なのだろう。 そうでないのであればやってられない。 「ああ、愛しい蒼士。今日も麗しい。」 歌うように言われて、思わず体をのけぞらせる。 麗しいわけがない。単なる平凡な男子高校生だ。 「あんた、目悪いんじゃないですか?」 「まさか。このサラサラの黒髪も薄い唇も、色白の手も何もかもが愛おしいよ。」 ニッコリと笑う表情は高校生と言うよりまるで王子様だ。 げんなりとして思わずため息をついた。 「なにより、蒼士は心が美しい。 具合の悪かった僕を保健室に付き添って看病をしてくれたじゃないか。」 うずくまっているこの男を見て思わず声をかけてしまった自分を呪いたい。 こんな馬鹿みたいなことを延々と話すやつだと知っていたら無視していた。     
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