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「あっ、いいっ……、それっ…」  快楽に流されそうになりながら、桜井は窓ガラスに爪を立てていた。  ガラスの外に広がる灰色の空。そこに毎日会社で見る綾樹の姿を思い描くが、窓越しに映る酷薄な笑みを浮かべている佐藤の姿が、桜井を現実に引き戻す。  綾樹への想望すら、許されないのか。  どうせ叶わないのに。叶わないから、この時間が夢であってほしいと願うのに。  佐藤の手が速さを増す。腰が痺れて、腹の奥から熱水が沸き上がるのを感じる。男の手で身体をくねらせながら、この現実から意識がめりめりと激しく引き剥がされていく。  瞬間、桜井の中で暴れている佐藤の切っ先が、一番感じる場所を擦り上げた。 「あああっ! だめぇっ!」  甘い悲鳴が飛び出し、強烈な痺れが腹から全身に走る。 「私、は……やっ…! んんっ!」  白い闇に飲み込まれるような強烈な錯覚。とんでもなく危険で後ろめたい愉悦を感じながら、桜井は絶対に成就しない苦怨の恋に堕ちていく。 「ああ、綾樹……」  不意に口にする、愛しい名前。 「綾樹……、私は……ああ、綾樹」  涙が零れ落ちる。  綾樹のことが好きなのに。  どうして自分は綾樹以外の男に身を任せている?  どうしてそれを許せている? 「綾樹……綾樹」     
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