77人が本棚に入れています
本棚に追加
ちゃんとそれなりに身なりを整えれば、すらりとした背の高さに加え、鼻梁通る整った顔立ちが際立って、たいそう周囲を騒がせる美丈夫なのに、いつも薄汚さを纏わせているような格好だ。
そこは佐藤曰く「桜井が嫉妬しないように、わざと人を遠ざける施策」だそうだが、あいにくと桜井自身は佐藤にそんな感情、一ミクロンの欠片すら持ち合わせてはいない。
「桜井、はるばる悪かったな」
「本当ですよ。あなたはいつもこうだ。急に人を、しかもとんでもなく遠くに呼びつける。近所のコンビニに呼び出すのとはわけが違うのに」
挨拶を無視して、二人掛けのソファーの片方に荷物を置きながら桜井が不満をぶつけると、佐藤は「でもこうして応じたじゃないか?」と意地悪く笑う。
「で、綾樹の弟さんはどこにいるんです?」
「あの鈍感な堅物とはうまくいってるのか? それともまだ切ない片想いか」
鈍感な堅物とは、桜井が企業弁護士を務める大手の老舗製薬会社「ブリリアントファーマシー」の社長である新城綾樹のことだ。
質問よりも桜井のデリケートな部分を突かれ、瞬間で気分がどんより重くなる。
どうしてこの男は、こういう下らない先制攻撃を仕掛けるのか。
無言のまま鋭い視線を刺し向ける桜井に、佐藤は「怖いな」と肩を竦めた。
最初のコメントを投稿しよう!