77人が本棚に入れています
本棚に追加
佐藤はちらりとカウンターに視線を走らせると、そのまま桜井のほうに身を乗り出す。
「おまえから電話があって調べてみた。新城の弟、高木春樹か。そいつはうちの病院に入院してる」
桜井は黙って佐藤の話を聞いていた。
桜井は、自身が勤務するブリリアントファーマシー先代社長・新城聡樹から春樹のことをうっすら聞いていた。
がんで亡くなる直前、喋るのがやっとだった聡樹は、会社のことと、聡樹の長男であり次期社長になる綾樹のこと、そして綾樹も知らない極秘事項を桜井に告げた。
新城家には、綾樹の他に、認知している高木春樹という名の次男がいること。
綾樹が十歳の時に水難事故で記憶を失ったあと、春樹は産みの母親に連れられて、どこかに姿を消してしまったこと。
どこにいるか定かではないが、自分の死後は春樹にも遺産を分けてやってほしいとのこと。
先代が亡くなってから遺産分配はスムーズに済んだものの、桜井にとって最初の誤算は綾樹の態度だった。
それは同時に、桜井が長い間、大切にしてきた綾樹への恋が砕けた瞬間でもあった。
まさか綾樹が春樹に執着するとは思わなかったのだ。
何も兄弟の再会や身内としての付き合いなどは否定しないが、気が付けば彼を手元に置き、恋人にしてしまうなんて。
最初のコメントを投稿しよう!