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桜井が取材陣を引きつけていたおかげで、新城家が今まで隠していた、春樹の事にまでは取材の手が及ばず、綾樹の状態に関してもノーマークのまま、報道はいつしか終息した。
どうも綾樹から刺された際のやり取りを聞く限り、綾樹と春樹には、本人たちも知らないような兄弟間の秘密があるようだ。
先代は知っているのだろうが、すでに亡くなっている。真相は墓の中だ。
春樹はその後、綾樹に黙って、行方をくらませてしまった。
周囲に気付かれぬよう、綾樹は春樹のことを探し回っているが、どうもその手掛かりすら見つけられていないらしい。綾樹がどんなに隠そうとも、春樹を失った彼の心痛がよくわかる。
見ていて痛々しいのだ。
普段と同じように仕事をしているのに、その顔からあらゆる表情と感情が消えた。目に光がなく、まるでプログラムに沿って動くロボットのようだ。
ロボットだってバッテリーが切れれば動かなくなるが、綾樹の場合はそうではなく、本人が意識せずにオーバーワーク気味だ。食事もろくに摂らないし、顔色も悪い。
春樹がいない空白を埋めようとして、綾樹はとにかく毎日がむしゃらに働いている。仕事をすることで、辛うじて精神を保っているように桜井には見えるのだ。
他にこれといった趣味も綾樹は持たないし、友人関係だって限られている。
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