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#1
小鳥のさえずる声は、最高の目覚まし時計。
「ん……」
瞼に眩しい光とほんのり熱を感じて、桜井恭司は重い瞼をゆるゆる開けた。
うつ伏せに寝返りを打って、ふわふわの枕を抱きしめる。まだ起き上がる気にはなれなくて、そのまま枕の柔らかさに頭を沈めてまどろんでしまう。
今日は出張で地方に来ている。ここは宿泊しているホテルの一室。
桜井が法務の顧問として務める製薬会社「ブリリアントファーマシー」が、新しい工場を建て、その落成式のためだ。
落成式には代表取締役社長である新城綾樹が出席するため、桜井はそれに随行したのだった。
綾樹が桜井のためにいい部屋を取ってくれた。広すぎる2人部屋。大きなベッド、ふかふかの布団。さらには室内には露天風呂もあって、高層階で大きな窓からは海が一望できた。
広いバルコニーに出ると、心地いい海風が吹いていて、空も海も独り占め。自然に抱かれる体験をーーそんなホテルのキャッチフレーズそのままの部屋だ。
お天気のいい日には、陽光きらめく海原が大層美しいのだという。
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